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ここはかつてコミケで細々とカモノハシの本を頒布していた個人サークルのサイトでしたが、この度、浅原正和公式サイトToothedplatypus.comとしてリニューアルしました。

哺乳類の歯・頭骨の形態進化

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名古屋に自然史博物館を(意見文)


 名古屋には「自然史博物館」がありません。東海地方を見渡すと、その人口と経済力にも関わらず、名古屋周辺だけが自然史博物館の空白地帯になっています。たとえば、静岡県静岡市には県立の自然史博物館、愛知県豊橋市には市立の自然史博物館があります。岐阜県関市と三重県津市には県立の総合博物館があり、自然史博物館の機能を担っています。
 名古屋とその一帯である尾張国は、江戸時代には「尾張本草学」と呼ばれる自然史研究の一大拠点でした。そういった誇るべき伝統があるにもかかわらず、尾張国は現在、公立の自然史博物館という点で周辺地域に後れをとっています。そのため、郷土の自然の記録である自然史標本(動植物の標本や化石標本)が他地域の博物館に寄贈され、散逸するということが起きています。とくに現在(2019年2月1日現在)名古屋ボストン美術館の跡地の利用法が定まっていません。その跡地に市立の自然史博物館を設立すれば、集客力のある施設として金山駅周辺のにぎわいを生み出すとともに、この地域全体の文化の発展と産業の育成に資することができるのではないでしょうか。このような考えのもと、以下のような文章を中日新聞に寄稿しました。


以下に中日新聞に寄稿した文章を再掲します(著作権は私が保持しているそうなので)。


名古屋に自然史博物館を 浅原正和(愛知学院大学教養部講師)

 日本有数の都市として繁栄する名古屋。歴史ある街には再開発とともに高層ビルが林立し、リニアの開通も八年後に迫った。そんな尾張名古屋にも一つ欠けているものがある。それは、「自然史博物館」である。
 名古屋市には歴史の教育研究を行う名古屋市博物館や、科学技術を扱う名古屋市科学館がある。しかし、生物多様性といった自然とその歴史を教育研究する「自然史博物館」は無いのである。世界の大都市ではロンドンの自然史博物館や、ニューヨークのアメリカ自然史博物館など、化石や鉱物、動植物の標本を収蔵・展示する自然史博物館が一等地にそびえ、社会教育や研究活動の拠点となるだけでなく、観光名所となっている。
 また、東海四県を見ると、静岡市と愛知県豊橋市には自然史博物館が、津市と岐阜県関市には相当する機能を担う県立の総合博物館がある。その中で、名古屋市と周辺がぽっかりと空白地域になっている。
江戸時代、尾張国は「尾張本草学」と呼ばれる、自然を研究し、さまざまな博物画(動植物の精密な絵)を残す活動の一大中心地であった。そのような世界に誇るべき伝統があるにもかかわらず、現状では周辺地域に対して、文化・学術の面で水をあけられているのである。  
 自然史博物館があれば、名古屋市周辺の自然環境に関する社会教育や研究活動、保護活動を行う中枢となることができる。あるいは、アートやデザイン分野の人々が生物などの自然物の造形からインスピレーションを得ることや、バイオミミクリー(生物の構造を工学に応用する手法)の推進といった製造業への波及も期待できよう。しかし、現在は名古屋市周辺の自然を象徴する貴重な標本資料が他地域の博物館に寄贈され、散逸するという現象が起こってしまっている。
 二〇一〇年に名古屋でCOP10(生物多様性条約第十回締結国会議)が開催された折、名古屋市は「生物多様性センター」を設立した。しかしながら、その機能は限定的であり、資料の収集や社会教育において博物館に匹敵する役割を果たすことはできない。
 現在、金山駅前の名古屋ボストン美術館跡地の利用方法が市で検討されている。このような市の資産を有効活用し、周辺県や豊橋市にも無いような新たな自然史博物館を作れないものだろうか。自然史博物館を設立するとすれば東海地方で最後発となるものの、だからこそ新機軸を取り入れることも可能である。都市型博物館としては、東京駅前で東京大総合研究博物館と日本郵便が運営するインターメディアテクが参考になるだろう。都心での展示に特化している施設として、名古屋ボストン美術館に近い施設といえる。
 尾張本草学の伝統と、名古屋ボストン美術館の精神を受け継ぎ、アートと自然史の要素を融合させた施設にすることも検討する価値がある。もちろん、限られた延べ床面積で出来ることは限られるため、生物多様性センターを含む名古屋市周辺の動植物園や水族館、大学、研究所といった関連機関との連携、サポート体制が重要となるだろう。
一方で、資料の収集と保管、そして展示の機能を担う博物館はこれら既存の施設の力を引き出す核ともなりえる。これからの時代は知識集約型産業の比重が高まり、文化や学術の力が都市圏の発展に重要な時代となるだろう。その一翼を担う施設として、自然史博物館は大きな役割を果たせるはずである。この地域が二十一世紀に世界に冠たる都市圏として飛翔するために、市は自然史博物館を設立すべきであると考える。


2019年2月1日の夕刊(東海三県版)に掲載されました

※写真はアメリカ自然史博物館で研究していたときに展示室で撮影したカモノハシ竜です。新聞社の方に自然史博物館の写真ないですか、って言われたのですが、手持ちの写真はほとんど標本庫のものばかりで、わずかな展示風景はカモノハシやこのカモノハシ竜の展示でした。カモノハシの展示は見栄えがしなかったので、カモノハシ竜の写真を載せることになりました。

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