カモノハシにも”おへそ”があります。
これが産まれたばかりのカモノハシです(Hughes and Hall 1998より、改変)。3がおへそに相当するものです。でべそです。
そもそもヒトの場合、おへそは胎盤と胎児をつなぐ管の名残です。胎盤は母体と胎児の間で酸素や栄養をやりとりするという、胎生で生まれる生き物に特徴的なものですが、それと似たものが卵で産まれる爬虫類、鳥類、哺乳類といった羊膜類の動物たちにもあるのです。卵で産まれる羊膜類は、へその緒の先に卵黄嚢とよばれる袋をもっています。卵の中にいる間、その中に蓄えられた卵黄を袋の膜から吸収し、栄養にしているのです。図に示したカモノハシの”おへそ”はその名残です。ちなみに私たち真獣類(有胎盤類)でも最初は卵黄嚢と相同な器官で胎盤をつくります。そののち、尿膜と呼ばれる膜(と漿膜が融合した膜)で完全な胎盤を作っていくのです。
なお、単孔類では卵に卵黄をたくさん蓄えているため、哺乳類の中で唯一卵割が盤割になります。これは受精卵全体が細胞分裂をするのではなく、ごく一部が盤状に分裂をすることをいいます。ほかには鳥類がこのような卵割をします。カモノハシは発生の最初ほかの哺乳類とまったく違う様式の卵割をするのです。
胚発生の過程で、初期は動物ごとに多様な卵割をしますが、その後、発生の途中で似通った形になっていくことが知られています。一方で、出来上がった動物の体はそれぞれ大きく異なります。個体発生の最初と最後はずいぶん違うけど、途中で一度似通った形になる、このことは発生砂時計モデルと呼ばれています。
さて、産まれたばかりのカモノハシにはほかにも変わった特徴があります。1と2を見てください。鼻先が角のようにもりあがり、へんてこな前歯が生えています。
1は卵角(caruncle)と呼ばれる構造で、鼻先が上にこんもりともりあがっているものです。2は卵歯(egg teeth)と呼ばれる歯です。これらはヘビやトカゲにもみられる構造で、これで卵の殻を破って孵化するのです。卵歯は孵化後すぐに抜け落ちてしまいますが、卵角は小さいながらもしばらく残っています。これは授乳のとき、母親のおなかを刺激してミルクの分泌を誘発するために使われるからだろうといわれています(Griffiths 1978)。
引用文献
Griffiths (1978)
The biology of the Monotremes. Academic press, New York.
Hughes and Hall (1998) Early development and embryology of the platypus.
Phil. Trans. R. Soc. Lond. B 353: 1101-1114.